東京からの手紙 — べったら市、時間をかけて育つ甘さ
10月の半ば、東京にはある独特の匂いが漂い始めます。
甘く、かすかに発酵した匂いが、屋台が見える前から風に乗って届きます。
それは、べったら市が日本橋にやってきた合図です。
名前に注意書きが入った漬物
毎年10月19日と20日、宝田恵比寿神社のまわりの通りは、べったら漬け(大根を麹で甘く漬け込み、透き通るまでつやを出したもの)を売る屋台で埋め尽くされます。
その名前は、漬け物を担いで人混みを歩く若者たちの古い掛け声「べったら、べったら!」から来ています——通りすがりの人の着物の袖に麹がつかないように、という呼びかけです。
このお祭りは江戸時代にさかのぼり、商人たちが恵比寿講を前に、商売繁盛を宝田恵比寿神社に祈ったことから始まりました。宝くじ発祥の地の神様ともいわれています。
震災も戦争も、四百年にわたる街の移り変わりも乗り越えて、今も変わらず同じ願いから始まります
——手で何かをつくる人々に、この先の季節が優しくありますように、という願いです。
日本は日本すべての道の起点
日本橋は、私たちの靴をお届けするサロンがある場所です。職人を抱え、靴をお仕立てする本社は浅草から、その距離、車で10~15分程度。
観光地としてはあまり有名でないかもしれません。
しかしながら日本橋は日本のすべての道のスタート地点であり、江戸時代から続く日本一の商売の地であり、いつも東京が自らの商いと信用を測るものさしでした
——季節ごとに、約束を守り続けるという、地味で目立たない信用の上に築かれた街です。
急げない甘さ
大根は、すぐにべったら漬けにはなりません。麹の中で数日、時には数週間、休ませて初めて出来上がります。その甘さに近道はなく、時間と手間、大根に真正面から向き合う人がいるだけです。
それは、手仕事でつくられる靴とそう違いはない、と私たちは思います——急ぐことができるものはなく、手順を守って、時間をかけて作られる。
反復の中に、知見、経験から少しの違いを感じ、少しだけ手を変えて、同じ品質を維持する。
それこそが職人技であり、信頼・信用に繋がることだと考えています。
近況をひとつ
私たちの近況を少しだけ。ご自分だけの着物シューズをデザインできるオンラインツールが、まもなく完成しそうです。実際にお試しいただいた最初のお客さまの声をもとに、今も静かに手を入れているところです。
そして秋が冬に近づくにつれ、私たちの気持ちはもう1月に向かっています
——パリのメゾン・エ・オブジェで、再びフランスへ伺います。
皆さまの中にも、会場でお会いできる方がいらっしゃれば嬉しく思います。
それまでの間、大根の漬物と、守られ続けてきた古い約束の甘い匂いに包まれた、この街からお便りいたします。
小野崎記子
HeWhoMe.Tokyo|ひふみ東京