東京からの手紙 — 酉の市と、手を打つということ
11月に入ると、浅草の夜は、いつもより少しだけ明るくなります。
提灯の灯りと、遠くから聞こえてくる威勢のいい手拍子。
それは、酉の市がやってきた合図です。

酉の市は、11月の酉の日に開かれる、開運と商売繁盛を願うお祭りです。
今年は11月7日と19日。
浅草では、千束の鷲神社と、隣の長國寺のまわりに、日が暮れてからも熊手の店が並びます。

熊手はもともと、落ち葉や穀物をかき集める農具でした。
それが「福をかき込む」道具として、縁起物に姿を変えたといわれます。
大きな熊手には、宝船や小判、おかめの面が飾られ、お店の軒先や会社の神棚で、一年を見守ってくれます。

熊手の買い方には、独特の作法があります。
まず、売り手と言葉を交わしながら、値段を値切ります。次に、まけてもらった分を、ご祝儀として売り手に渡します。そして最後に、売り手と買い手が声を合わせて、手締めをします。

私は、これは値段を決めるためだけの時間ではないと思います。顔を合わせて、お互いの一年の商売がうまくいくようにと、願い合う時間です。お金のやりとりのはずなのに、いつも拍手と笑顔で終わります。
熊手は、買って終わりではありません。翌年の酉の市に持っていき、一年のお礼を伝えて納め、新しい熊手を迎えます。
私たちの靴も、少し似ていると思います。
職人が一足ずつ手でつくる本社は、同じ浅草にあります。お客さまの手に渡ったところから、靴との付き合いがはじまります。履いて、足に馴染ませて、手入れをして、また何年も履いていく。手仕事でつくったものは、つくって終わりではなく、そこからが本当のはじまりであると、私たちは考えています。
近況をひとつ。
秋が深まるにつれて、私たちの気持ちは、もう1月に向かっています。パリのメゾン・エ・オブジェに、再び伺います。会場でお会いできる方がいらっしゃれば、嬉しく思います。
それまでの間、来る年の福を呼び込む手拍子が響く、この街からお便りいたします。
HeWhoMe.Tokyo
小野崎記子
写真:広重「名所江戸百景」(パブリックドメイン)/Yoshikazu TAKADA(CC BY 2.0)・Wikimedia Commons